パリ、嘘つきな恋
フランスの恋愛コメディ、と括るには勿体無いくらいの秀作。印象的なのは車椅子の彼女が全く怒りの表情を見せず、終始チャーミングに振る舞っていること。こういったテーマの作品にありがちな当事者がハンディに対して感情を爆発させるとか、不寛容な社会に対するメッセージとか、恋人に「あなたは何もわかっていない!」と凄む口論、といった類のものが全くなく、かといってハートフルな笑いで世の中の上辺をなぞっているわけでもない。観客からは容易に想像できている彼女の笑顔の背景にある車椅子生活者にとっての様々なバリアの存在、例えば、石畳やバスの乗降、階段など物理的な生きづらさへの描写は曖昧にして、主人公の心理的バリア、生きづらさを浮き彫りにしている。彼女や主人公だけでなく、観客も「脚のこと忘れちゃう」くらい魅力的な彼女の生き方を目の当たりにして、不自由なのはむしろ自分の方ではないのかと立ち返り、その時に「不自由」と「障がい」がイコールではないことに気づかされるのである。そしてラストシーンでは相手の障がいの有無に関わらず、自分の障がいの有無に関わらず、目の前で困っていたら笑顔で手を差し伸べるという人間関係の在り方を素晴らしい形で表現している。さらに細かな場面でダイバーシティを取り扱っていたり、過度な説明をしないフランス映画のエスプリが社会派作品としても見事にまとめられている。
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